☆うなぎ文について

(1)うなぎ文とは

 レストランなどで注文するものを決めるとき「君はなににする?」という質問に対して「ぼくはうなぎにする」という代わりに「ぼくはうなぎだ」と言うことがある。
 このような「ぼくはうなぎだ」に代表される「〜は〜だ」と言う文をうなぎ文と言う。

(2)うなぎ文の沿革

 うなぎ文は、奥津敬一郎『「ボクハ ウナギダ」の文法』(くろしお出版 1978)によって一躍有名になったが、実は、それより先に、金田一春彦が述べている。そのことは『「ボクハ ウナギダ」の文法』の p.21 にも書いてある。

  このように「ダ」を動詞または述語の代用とする考えは、すで
 に金田一春彦氏も示唆している。
  金田一氏は、「“君ワ何オ食ベル?”に対して“ボクハウナギヲ
 食ウ”と答へる代りに“ボクハウナギダ”と短く言」(金田一
 (1955)p.188)うのである、としている。
  ……
  「ダ」に関する通説を破った卓見である。

 ここの金田一(1955)とは、金田一春彦(1955)「日本語」『世界言語概説 下』(研究社、1955)のことである。金田一春彦『日本語』(岩波新書)にも出ている。
 うなぎ文「ぼくはうなぎだ」のダはイコールの関係を示しているのではない。奥津は、ダは述部代替として用いられる、としている。
 この考え自体は金田一春彦にもあり、さらにさかのぼって、山田孝雄にもある。奥津は、ダのそういった性格を生成文法の観点から詳細に述べたもので、その著書はうなぎ文そのものを有名にしてしまった。
 

(3)うなぎ文の種類について

 うなぎ文にも種類がある。例えば、次の文はどうであろうか。
  1. ぼくはうなぎだ。
  2. このバスは新宿だ。
  3. 私はモーツアルトだ。
  4. 姉は男の子だ。
  5. 私は501号室だ。
  6. ジョンさんはBクラスだ。
  7. ジョンさんは 〜という意見だ。
  8. ジョンさんは病気だ。
  9. 今日は休みだ。
 うなぎ文には種類があるばかりでなく、うなぎ文らしさに程度があるものと思われる。これをウナギ度(このことばだけ「うなぎ」の部分をかたかな書きとする)と言うことにしよう。
 文脈の助けがないと理解できない 例 1 のような典型的なうなぎ文を仮にウナギ度5として、例 8、9 のような文をウナギ度1としよう。その中間にいろいろなうなぎ文があると思う。
 例 5、6、7、8、9 などは文脈がなくても理解できるだろう。例 7 については、ドイツ語で Ich bin der Meinung, dass 〜 と言い、この Meinung(意見)は女性名詞で、冠詞が der ということは、属格形(2格)だということである。英語で I am of the opinion that 〜 と言うのに大体当たる。例 7 はウナギ度の低いうなぎ文である。
 

(4)うなぎ文は日本語の特徴か

 こう見てくると、うなぎ文は意外にたくさんあることに気付く。うなぎ文は日本語にだけあるのかというと、そんなことはない。英語、中国語にもあることが報告されている。  例文 5 は中国で観察された中国語のうなぎ文の日本語バージョンである。英語にもある。これはあるまんがであるが、レストランで I'm coffee と言っているのがあるそうである。  うなぎ文は、日本語の他には中国語、英語だけにあるのか。そうではないと思う。他の言語にもあるはずである。ただ、報告されていないだけであろう。

(5)うなぎ文の日本語教育での扱い

 次に、うなぎ文を日本語教育でどう扱ったらよいか、考えてみよう。初級のテキストには「ぼくはうなぎだ」のようなウナギ度5の文は、めったに出て来ないから、問題になることはほとんどない。  例文 6 のようなウナギ度の低い文は、意図的にでなく提示されることがある。「だ/です」はコピュラ(be 動詞)と同じです、と教えた場合、ごくまれに、頭のかたい学生が「この文はおかしい」と言うことがある。 日本語教育では、まず例文 4 のようなシチュエーションの考えやすい例で説明すべきである。つまり、ある姉妹のお子さんの話をしている場面である。「ところで、お姉さんは?」と聞かれたとき、「姉は男の子です」などと答えるだろう。