テンスの比較
 ==多言語比較研究の最重要な課題==

吉川 武時
2018年9月11日

1 テンスとアスペクト

「本を読んでいる」は英語で I am reading a book. と言う。 現在進行形 be~ing である。
しかし、日本語の「~ている」がすべて英語の現在進行形になるかというと、 そうではない。
「窓が開いている」は The window is open.となる。 この違いは「~ている」に意味の違いがあるからである。
つまり「~ている」が進行の状態を表す場合と結果の状態を表す 場合があるのである。
この現象に興味を持ったのが日本語文法への興味の始まりである。
それは動詞の性質によるものである、というのが昭和25年の金田一春彦先生の 論文で有名になった継続動詞、瞬間動詞の違いである。
これはテンスではなくアスペクトの問題であるが、テンスとアスペクトとは 密接な関係があるので、以来、テンスとアスペクトは対で言われるようになった。
日本語英語
本を読んでいる。進行の状態。「読む」は継続動詞I am reading a book. 現在進行形
窓が開いている。結果の状態。「開く」は瞬間動詞The window is open.

2 英語のテンス

英語の read は現在形と過去形が同じなので、テンスの比較をするにはふさわしくない。代わりに eat にしよう。
I eat現在食べる
I ate過去食べた
I am eating現在進行形食べている
I was eating過去進行形食べていた
I have eaten現在完了食べてしまった
I had eaten過去完了食べてしまっていた
I have been eating現在完了進行形食べてきた
I had been eating過去完了進行形食べてきていた
未来形は省く。
進行形には「形」を付けたくなるが、他の時制には「形」を付けなかった。
過去と現在完了を区別するために、後者に「食べてしまった」を当てたが、 「~てしまった」には失策のニュアンスがあるので、本当は「食べた」だけにしたい。イタリア語ではこの形が最もポピュラーな過去を表すものである。 あとで述べる比較表を参照。
「~てきた」は過去から現在までの継続を表すので、 現在完了進行形に「食べてきた」を当てた。

3 多言語の比較

現在、過去とそれぞれの進行形と完了形の多言語比較を行う。 次の表は英語を基にしてそれを各言語に google翻訳したものである。 (日本語は翻訳したものではない。)
日本語英語イタリア語ドイツ語トルコ語ロシア語
食べるI eatmangioich esseyerimя ем
食べたI ate(mangiai)
ho mangiato
(aß)
ich habe gegessen
yedimя ел
食べているI am eatingsto mangiandoich esse yiyorumя ем
食べていたI was eatingstavo mangiando(aß)
ich habe gegessen
yiyordumя ел
食べてしまったI have eatenho mangiatoich habe gegessen yedimя съел
食べてしまっていたI had eatenavevo mangiatoich hatte gegessenyedimя съел

4 形優先か意味優先か

この表をながめて、気になるところを見ていこう。問題は 形優先か、意味優先か、ということである。
これをごっちゃにすると、表が複雑になってしまう。
I ate (食べた)のイタリア語は形から言うと mangiai(遠過去) だが、 ho mangiato(近過去)がよく使われるので、これが現れている。 但し、イタリア南部では遠過去が使われる、とも言われている。 スペイン語で見ると、「食べた」は comí と点過去になっている。
点過去とはイタリア語の遠過去に当たる用語である。
ドイツ語には進行形がないので、「食べる」も「食べている」も同じ形になっている。
ドイツ語で「食べていた」は過去形 aß でよさそうだが。
イタリア語でも stare を使った進行形はまれで、 現在形そのままで進行の意味も表すという。表には形を優先させて示してあるのだ。「食べていた」は意味から言うと、mangiavo (半過去)が来るはずである。
トルコ語の現在完了、過去完了はこの表では過去と同じ形になっている。
ロシア語も進行形がないので、「食べる」も「食べている」も同じになっている。同様に「食べた」も「食べていた」も同じ。 ロシア語には完了体と不完了体の区別があるので、英語の完了形には 完了体が使われている。但し、現在完了と過去完了の区別はないようだ。
これは英語を基にして google翻訳したものであるが、 日本語を基にして google翻訳すると、また別の結果が出てくると思う。
また、動詞の種類によってテンスも違った様相を呈するはずで、 テンスの比較はこんな単純なものではない、とおっしゃる方もいるかもしれない。
テンスの用法は語学の本には必ず書いてあることだが、 多言語を比較したものはあまりない、と思う。
きわめて常識的なことを表にまとめただけで、不備な点もあると思うが、 一応アップする。アスペクトの比較はいずれまた。
「窓が開いている」と「窓が開けてある」