文法、文、単語、品詞

 
吉川 武時

はじめに

--「文」「単語」を定義するのは難しい
日本語文法を論ずるにあたって、その基本概念である「文法、文、単語、品詞」について概略を説明しておかなければならない。しかし、この中で「文」と「単語」については、完全に定義することは不可能と考えられている。
そこで、ここではできるだけ具体的な例でこれらのことばを説明してみようと思う。

(1)文法とは

--単語を組み合わせて文を作る規則の集まり
「文法」の定義は、文、単語の定義ほど難しくはない。「文法」についてはいろいろな考え方があるが、文法とは「単語を組み合わせて文を作る規則の集まり」と言ってよかろう。 ただし、この定義の中に「単語、文」ということばを使ってしまったから、よい定義とは言えない。
文法とは「品詞分類」ではない。また、暗記するものでもない。文法は「規則の集まり」であり、その規則は言語資料(データ)に基づいて「考え出す」ものなのだ。
ことばは時代によって変化する。文法も時代によって変化する。より簡潔で多くの現象を説明できる規則を求めて、日々 文法の研究がなされているのである。

(2)文とは

--表記上では「。」で区切られた一区切り
「文」は定義するのに難しい概念である。ただし、表記された文を定義するのはやさしい。 表記されたもの、つまり書かれたものでは「。」で区切られたものが一つの文である。
これでは「文」を定義したことにはならないのであるが、 伝統的な定義「あるまとまりのある思想を表すもの」では抽象的で分かりにくい。
研究をすすめる上でも、教授する上でも、ひとまず 上に述べた形式的な定義で充分であろう。

(3)単語とは

--もっとも定義の困難な術語
具体的な例で考えてみよう。

◎自立語と付属語

 太郎は本を読んだ。
と言う文がある。また、
 太郎が本を読んだ。
 太郎に本を貸した。
という文もある。これらを比べると「太郎は」「太郎が」 「太郎に」という部分では「太郎」が共通で、 異なるのは「は、が、に」である。 つまり「太郎」と「は、が、に」とに分けられる。 「本を」についても「本がある」という文と比べると、 同様に「本」と「を、が」とにはっきり分けることができる。 「太郎」や「本」は実質的な意味を持つ。 これらはまぎれもなく単語である。

(注)実質的な意味を持たないが、文法的には名詞に分類される「形式名詞」という ものがある。これは、他の語と組み合わさって文法的な意味を表す。 「こと、もの、わけ、はず」など。

「は、が、に、を」はどうか。 これらは単独で用いられることはない。 常に前の名詞に付いて用いられる。 実質的な意味はないが、文法的に重要な意味を担っている。 これらも単語である。
「太郎、本」のように単独で用いられる単語を自立語と言う。 「は、が、に、を」のように常に前の単語に付いて用いられる 単語を付属語と言う。単語は大きく自立語と付属語とに 分けられるわけである。

◎語尾

「読んだ」はどうか。「読んだ」「およいだ」「飛んだ」と並べると、 これらは共通に「だ」を持っている。 「だ」は「完了」あるいは「過去」という文法的意味を表すが、 単独では用いられず、常に前の単語に付いて用いられる。
「読んだ」「およいだ」「飛んだ」から その共通部分の「だ」を取り去ると「読ん」「およい」「飛ん」が残る。 これらも単独では用いられない。 これは「読んだ」「およいだ」「飛んだ」で それぞれ1つの単語である。 「読む、およぐ、飛ぶ」という単語の変化した形が 「読んだ、およいだ、飛んだ」で、 それらに共通の「だ」は変化語尾 (単に語尾とも言う)である。

◎形態素

確かに「読ん+だ」「およい+だ」「飛ん+だ」という分析はできる。 しかし、細かく分析できるからといって、 それぞれが単語であるというわけではない。 つまり「『読ん』『だ』がそれぞれ単語で 『読んだ』は2語から成る」という 認定にはならないのである。
細かく分析したもの、 単語以下の単位にもそれを表す術語がある。 一般に「意味のある最小の単位」を形態素と言う。 形態素というのは一般言語学の用語であって、 どの言語にも適応される術語である。
西洋から輸入した術語は日本語には適用 できない、と主張するむきもあるが、 それはことと次第によりけりである。
形態素は morpheme を訳したものであるが、 日本語についてこれとほぼ同じ概念に到達し、 これを「原辞」と名付けた文法学者がいる。 松下大三郎である。
  
自立語、付属語、語尾、形態素のまとめ
形態素単語自立語名詞太郎 本
動詞読む およぐ 飛ぶ
付属語助詞は が に を
単語でないもの 語尾
 接頭辞お(菓子)
 接尾辞(うれし)がる
形態素は一般的な術語。 単語であるもの単語でないものも すべてを含む。
単語は自立語付属語とに 分けられる。自立語には「太郎、本」などの名詞、 「読む、およぐ」などの動詞、 さらに次章で述べるような品詞がある。 付属語には「は、が、に、を」など助詞と 言われるものが含まれる。
単語でない形態素には語尾の他に 接頭辞接尾辞がある。 (これらを「接頭語」、「接尾語」と呼ぶのは、 単語ではないから、おかしい)。
接頭辞の例 「お菓子、お手紙」の「お」など
接尾辞の例 「日本人、うれしがる」の「人」「がる」など

◎単語意識

「太郎は本を読んだ」を ローマ字で書くとすると、普通
Taroo wa hon o yonda.
と書く。(ワープロでは「は」は ha と、 「を」は wo と打つ。)
 Taroo-wa hon-o yon-da.
と、ハイフンを入れたり、
  Taroowa hon'o yonda.
と、助詞を前の名詞にくっつけて書いたりはしない。 特に、「読んだ」を yon da と離して 書くことは絶対にない。だから yonda で一語なのである。 そういう“単語意識”があるから yonda と続けて書くのである。

(4)品詞とは

-- 単語をその性質によって分類してラベルを付けたもの
文法の本と言うと、品詞の話ばかり出て来るものと思いがちである。 そして、品詞論中心の文法の話は面白くない。 しかし、最低限 品詞の名称は知っておく必要がある。
品詞とは「単語をその性質によって分類して ラベルを付けたもの」である。 文法現象を説明するために必要に応じてことばを区別し、 それぞれに名称を与えたものである。
前節で述べたように、単語は大きく 自立語と付属語とに分けられる。

(1)自立語の品詞

動詞、形容詞、形容動詞には 形態的特徴がある。
名詞 表すもの物の名前など
形態的特徴特になし
主な働き適当な助詞を伴って動作の主体や対象を表す。
動詞 表すもの動き、存在
形態的特徴終止形はウ段で終る。ローマ字で書くと-uで終る。
主な働き文をしめくくる。働きによって語形変化する。
形容詞
(イ形容詞)
表すもの物の形状や状態を表す。
形態的特徴終止形で「~い」となる。
主な働き名詞を修飾する。
形容動詞
(ナ形容詞)
表すもの物の形状や状態を表す。
形態的特徴連体形で「~な」となる。
主な働き名詞を修飾する。
副詞 表すもの 
形態的特徴特になし。「ゆっくり、もっと、もう」
*例については次の表を参照。
主な働き動詞、形容詞、他の副詞を修飾する。

副詞の用例
動詞を修飾するゆっくり歩く
形容詞を修飾するもっといい
他の副詞を修飾するもっとゆっくり
例外的に名詞を修飾することもある。特殊な例。もっと右

次の形は副詞の働きをする。
形容詞のクの形早く
形容動詞のニの形元気に
動詞のテの形いそいで

注1 「大きな、小さな」は連体詞である。
連体詞とは、もっぱら体言(名詞類)を修飾する働きをする品詞である。 「大きな」とは言っても「大きだ」と言わないから形容動詞(ナ形容詞)ではない。
注2 動詞と形容詞
動詞は文をしめくくる、形容詞は名詞を修飾する、というのは 「本来の働き」のことで、実際は両者とも両方の働きがある。
 文をしめくくる名詞を修飾する
動詞本を読んだ。読む本
形容詞これはいい。いい本

◎コソアド

コソアドは品詞を縦断する。
◎コソアドの体系
これそれあれどれ名詞
ここそこあそこどこ名詞
このそのあのどの連体詞
こんなそんなあんなどんな連体詞
こう そう ああ どう 副詞
こっちそっちあっちどっち名詞
こちらそちらあちらどちら名詞

◎その他の注意すべき品詞

固有名詞、代名詞
これらは名詞の下位分類である。
  • 英語の固有名詞は大文字で書く、冠詞が(原則として)付かない などの規則があるので、固有名詞のラベルは有効である。
    日本語では文法的に特に普通の名詞と区別する必要はない。
  • 英語の代名詞は I my me などと変化の仕方が一般の名詞と 異なるので区別する必要がある。
    日本語では文法的に特に普通の名詞と区別する必要はない。
    「代名詞」とは名詞の代わりに用いられるという定義であるが、 日本語では代名詞の代わりに名詞が用いられる例もあるくらいだ。
形式名詞 表すもの実質的な意味を持たない
形態的特徴特になし
働き他の品詞と組み合わさって重要な文法的意味を表す
数詞 表すもの
形態的特徴特になし
働き副詞に準ずる。

(2)付属語の品詞

◎助詞

助詞はさらに次のように下位区分される。
格助詞名詞に付いて述語との関係を示す。が、を、に、へ、で、と、から、より、の
係助詞名詞(に格助詞の付いたもの)に付いて話し手の気持ちを表す。は、も、さえ
並立助詞名詞と名詞をつなぐ。と、や、か
終助詞文末に付いて話し手の聞き手に対する態度などを表す。ね、さ、よ、か、わ
接続助詞文をつなぐ。から、ので、が、と、し
同じ語形が2種以上の助詞にまたがることがある。

◎“助動詞”はない

ないものを挙げるのはおかしなことだが、 「あれ、助動詞がない」と不思議に思われる方もいると思われるので、 特に「~はない」と示しておく。 まだ、不審に思う方は “助動詞”のない文法 を見てください。

具体的な展開は 日本語文法論[1]~[4] あるいは『日本語文法入門』(アルク)を見てください。