かばんの中に本があります

吉川 武時
2018年9月16日
改訂 9月17日
Yahoo知恵袋に「かばんに本がある」と「かばんの中に本がある」は どう違うか、という質問があった。
どちらも同じだが、「の中」を付けると強調する意味になる、と答えるのが普通であり、日本語教育の教室ではあまり問題にしない。
まず、上の文を goolge翻訳で調べてみた。すると、韓国語だけが違う訳文になっており、他の言語では同じ訳文になった。
日本語かばんに本がある。かばんの中に本がある。
韓国語가방에 책이있다.가방 속에 책이있다.
英語There is a book in the bag.
속에 は「中に」である。他の言語を表にするまでもなかろう。

1 問題

しかし、学習者の中には「の中」を付けるべきか、付けなくてもいいか、真剣に迷う人がいる。これに答えるには
①「中に」を使わなければならない場合。
②「中に」を使っても使わなくてもいい場合。
③「中に」を使うべきでない場合。
を調べなければならない。 ちょっと考えてみたが、この中では②どちらでもいい場合が多い。だから、 日本語教育の現場ではあまり重要視しないのだ。
①②③の違いは名詞の性質によるものか、と思ったが、それだけではない。
通常の用途を述べる場合とそうでない場合に違いがあるようだ。

2 名詞の性質

まず、名詞の性質について次の例文で多言語比較をしてみよう。
日本語机に本がある。おかしいが、「机の中に本がある」と解釈する。
机の中に本がある。「机の引き出しの中に本がある」と解釈する。
机の引き出しに本がある。誤解のない普通の言い方。
机の引き出しの中に本がある。重複した感じ。「の中」は要らない。
英語There is a book at the desk.
There is a book in the desk.
There is a book on the drawer of the desk.
There is a book in the desk drawer.
at the desk
in the desk
on the drawer of the desk
in the desk drawer
フィンランド語Pöydällä on kirja.
Pöytäkoneessa on kirja.
Pöydän laatikossa on kirja.
Pöytälevyllä on kirja.
面格 -llä
内格 -ssa
laatikko 引き出し
levy(平べったいもの)
ロシア語На столе есть книга.
На столе есть книга.
В ящике стола есть книга.
В ящике стола есть книга.
上の2つは同じ。
下の二つも同じ。
韓国語책상에 책이있다.
책상에 책이있다.
책상 서랍에 책이있다.
책상 서랍 속에 책이있다.
上の2つが同じになった。
속 は「の中」。
タイ語มีหนังสืออยู่ที่โต๊ะ 
มีหนังสืออยู่ที่โต๊ะ 
มีหนังสืออยู่ที่ลิ้นชักโต๊ะ 
มีหนังสืออยู่ในลิ้นชักโต๊ะ 
上の2つは同じ。一番下の文にใน がある。
考察。 人には「へんだな」と思っても、合理的に解釈する力がある。日本語の1番目と2番目の文を参照。そういうことなので、韓国語では1番目の文と2番目の文が同じになっている。
「中に」のない文とこれのある文の違いは 英語では at と in で区別しており、フィンランド語では面格と内格で区別している。ロシア語はどちらも На である。
なにかの入れ物を表す名詞は「の中」を付けると重複した感じになる。箱名詞とか入れ物名詞とかの区分がありそうだ。
先にこう述べたが、どうもそうではないらしい。
つまり、上の例はそれとして、箱名詞こそ「の中」を取ることが多いようだ。
例えば、
箱の中に本があります。
袋の中に白い玉があります。
壺の中に赤い玉があります。
また、箱の形をしていなくても、何かを囲むものもこの例になる。
檻の中にライオンがいる。
塀の中に車がある。
但し、次の例はどうか。
この都市に空港がある。
この都市の中に空港がある。
日本に世界遺産がある。
日本の中に世界遺産がある。
これらの例では「中に」は限定しすぎのような感じがする。
国や都市のような地名は平べったいものという認識があるからか。

3 通常の用途かそうでないか

次に、箱の形をした物が本来の用途に使われるときの言い方と、 そうでない使われ方を言う場合の違いを考えてみる。
例文の「靴箱」や「冷蔵庫」は箱の形をした名詞である。
靴箱に靴がある。冷蔵庫にビールがある。本来の用途を言う場合「の中」はなくてもよい。
靴箱の中に靴がある。冷蔵庫の中にビールがある。「の中」は強調した感じ。
靴箱に本がある。冷蔵庫に虫がいる。一瞬とまどう。
靴箱の中に本がある。冷蔵庫の中に虫がいる。通常でない使い方の場合は「の中」が必要。
考察したことを右の欄に書いた。結局、どうでも言えるような規則だ。

5 ついでに多言語比較

次の例について google翻訳で調べてみた。
日本語部屋に学生がいる。
部屋の中に学生がいる。
英語There are students in the room.
There is a student in the room.
イタリア語Ci sono studenti nella stanza.
C'è uno studente nella stanza.
フィンランド語Huoneissa on opiskelijoita.
Huoneessa on opiskelija. 
フランス語Il y a des étudiants dans la salle.
Il y a un étudiant dans la salle.
トルコ語Odada öğrenciler var.
Odada bir öğrenci var.
韓国語방에 학생이있다.
방 안에 학생이있다.
タイ語มีนักเรียนอยู่ในห้อง 
มีนักเรียนอยู่ในห้อง
びっくりしたことに英語からトルコ語まで「部屋に学生がいる」の「学生」が複数形になっている。しかも、「の中」のあるなしの違いはどこにも現れていない。
韓国語とタイ語では学生が複数形にはなっていない。
韓国語は 안에 で「中に」を表しているが、タイ語は全く同じになっている。
これでこの問題がすべて解決できたわけではないが、なにか糸口は見付かったようだ。